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福岡高等裁判所那覇支部 昭和55年(う)29号 判決

地方公務員

甲野一郎

地方公務員

乙山次郎

右の者らに対する威力業務妨害被告事件について、昭和五五年二月二八日那覇地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人および被告人両名から各控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官小田攻出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人鎌形寛之、同金城睦、同永吉盛元共同作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官小田攻作成名義の答弁書にそれぞれ記載してあるとおりであるから、これらを引用し、これに対して当裁判所は、次のとおり判断する。

一  事実誤認の論旨について

所論は、要するに、原判決は、いわゆる七三春闘の一環として昭和四八年五月二四日から同月二六日(以下、単に日にちだけを表示するときは同月のことを指す)にかけて那覇市職員労働組合(以下「市職労」という)が行った争議行為(以下「スト」ともいう)のさい那覇港ふ頭ゲートにおいて張られたピケッティング(以下「ピケ」という)によって、港湾業者や荷主らの業務が妨害されたとして、市職労執行委員長であった被告人甲野、同執行副委員長であった被告人乙山につき威力業務妨害の事実を認定したけれども、原判決の認定した本件ピケのとらえ方(目的・態様)、本件ストへの市当局の対応、本件ピケに対する関係業者等の対応、本件スト期間中の貨物の搬出入、原判決認定の別表各事実の存在等については、いずれも重大な事実の誤認があり、原判決は破棄を免れないと主張する。

所論にかんがみ記録を精査し、当審での事実調べの結果をも参酌して検討すると、原判決が「罪となるべき事実」として認定した事実は、原判決のかかげる証拠により優に認定できるほか、原判決が、「本件犯行の背景をなすスト及びピケの状況等」と題し、また弁護人らの主張に対する判断中で「判示事実認定についての付加説明」及び「威力業務妨害罪の構成要件該当性」と題して詳細に説示、認定した点は概ね相当であると認められ、原判決に判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認があるとは考えられない。以下、所論の指摘する項目ごとに若干補足説明を加えることとする。

1  本件ピケのとらえ方について

所論は、要するに、原判決は、ストとピケに対する根本的認識を誤ったため、本件ピケをただちに威力にあたると誤って解したうえ、ピケの目的、態様についても事実誤認を犯している、即ち、本件ピケの目的は、(1)組合の団結の誇示と組合員の志気の高揚、(2)港湾利用者や一般市民に対する理解と協力の要請、(3)盗難の予防と港湾秩序の維持、(4)第二組合員や悪質業者からのストの防衛の四点にあったのに、原判決が右目的をすべて否定し、本件ピケの主たる目的がゲートを封鎖して業者らの通行を阻止もしくは制限し、貨物の搬出入等をできる限り阻止することにあった旨認定したのは誤りである、また、本件ピケの態様については、ピケ隊はあくまでも関係業者を説得したのであって、ピケが整然と行われ、特別のトラブルも発生しなかったから、本件ピケの態様は法的に十分許容される範囲内にあったと認められるのに、原判決がこれを否定したのは誤りである、特に、戦術会議で二五日のピケを強化して一切の貨物の搬出入を阻止する旨の決定をしたとか、市職労の組合員が中央ゲート、西ゲートの内側にバリケードを築いたとかの認定は誤りであると主張する。

そこで、まず、スト期間中のピケの態様について検討すると、関係証拠によれば、原判決が「那覇港中央ゲート及び西ゲートにおけるピケの状況」と題して詳細に認定する点は概ね相当であると認められる。二六日午前警察機動隊が出動したさい、中央ゲートの左右(以下、左右は、港外から港内に向かっていう)の門扉の内側に盤木等で作られたバリケードが存在したことは明白であるところ、ストの開始された二四日にはこれが存在しなかったのに、二五日早朝には存在したこと(〈証拠略〉)、二四日の夜も市職労のピケ隊員が中央ゲート付近にいたから、ピケ隊の知らない間にこつ然とバリケードが出現するとは考えられないし、また市職労以外にバリケードを構築する必要のある者ないし団体も存在しにくいことなどに徴すれば、中央ゲートのバリケードは、市職労のピケ隊もしくはその要請を受けて協力した者により構築されたものと推認した原判決は相当であると考えられる。また、西ゲートについては、二六日午前に同ゲートの右側門扉の内側に盤木等で作られたバリケードが存在したことは明らかであるところ、友利義一の検察官調書によると、二五日午前中、乗船客らがピケ隊の隙をついて閉鎖されていた同ゲートの門扉の鍵を壊してふ頭内に入ったため、中央ゲートからかけつけたピケ隊員らが門扉を閉鎖し、内側に盤木等でバリケードを築いたことが認められる(なお、西ゲートの右側扉は通常閉鎖されていて、その部分内側に従来から盤木等が置かれていた可能性もないではなく、したがって、ピケ隊がその上に盤木等を積み増してバリケードにした可能性もある。また二五日の夜になって西ゲートから車両が出入りしたことも認められるから、その限度ではバリケードは門扉左側部分の車両通行に支障がない状態になっていたと思われ、二五日午前にピケ隊が築いたバリケードが二六日午前にもそのままの形で残っていたとは必ずしもいえない。しかし、いずれにしても、ピケ隊員がバリケード構築に関与していること自体は否定できない)。また、仮りにピケ隊員が中央ゲートのバリケード構築に関与していないとしても、被告人両名を含む市職労のピケ隊員らには右のバリケードを除去しようとした形跡は全くなく、かえってバリケードの盤木等に旗等を縛りつけたりしているのであって(各写真撮影報告書)、ピケ隊が右バリケードの存在を是認したうえで(被告人甲野の原審供述)、これを利用してピケを張っていたことを認めるに十分である。そして、ゲートの門扉の状況については、通常は昼夜とも閉鎖されていない中央ゲート及び昼間は閉鎖されていない西ゲートの門扉が三日間を通じて閉鎖され(ただし、中央ゲートは、二四日には一時左門扉が若干開いていた。また西ゲートは、三日間とも荷役作業や緊急貨物搬出等のため一時的に開かれて車両等が出入りした事情はある)、時には鍵までかけられていたこと(以上、〈証拠略〉。なお、二六日午前機動隊が出動した段階では、中央ゲート左側の門扉は鉄製鎖と錠で固定されていたうえ、ポール・角材・丸太棒等が門扉に縛りつけられていた)、一方、ピケ隊の言動については、二四日二〇ないし三〇名、二五日四〇ないし五〇名、二六日約一〇〇名のピケ隊員がゲート付近に集合し(中にはヘルメットに覆面姿も混じっていた)、ゲートの前面でスクラムを組んで座り込んだり、立ち塞がったりし、夜間も数名がゲート付近で泊り込んで警戒していたうえ(この点については関係証拠上明らかである)、是非ともふ頭内に立ち入って仕事をしなければならない業者に対し、後記認定のように押し問答を繰り返し、原判示のように、「そういうことを一つ一つ聞くわけにはいかない」、「文句があるなら市長にいえ。帰れ」、「だめだ。諦めて帰りなさい」、「今日は全面封鎖だから入れるわけにはいかん」などと相当強い態度で業者らの立ち入りを拒否、制限していたのであって、ピケ隊員の業者らに対する応待が特別のトラブルもなく穏やかなものであったとは到底いえないこと(現に前示のように二五日に乗船予定の船客が西ゲートの鍵を壊してふ頭内に立ち入ったり、〈人証略〉にあるように船客がピケ隊員を殴るという事態も生じた)が認められる。以上によれば、本件ピケは、バリケード構築・門扉閉鎖等という物理力を行使するとともにピケ隊員の言動によってもゲートで車両を厳重にチェックしてその通行を阻止、制限したことが明らかであり、原判示各事実については、後記認定の事情でも明らかなように、これが威力業務妨害罪にいう威力にあたることはいうまでもなく、それが法的に許容される範囲内のものであったとは到底考えられない。なお、二五日のピケが強化されたことは関係業者らの証言や被告人甲野の原審供述により明らかであるが、これは戦術会議の決定に基づくと推認するのが自然な見方であり、仮りにそうでないとしても、この点が判決に影響を及ぼすとはいえない(原判決もバリケード構築が戦術会議の決定によるとまでは認定していない)。

次に、本件ピケの目的については、確かに所論のいうように本件ピケの目的として所論指摘の(1)ないし(4)の目的がなかったとは断定しがたいけれども、原判決も指摘するように、(1)の目的のためには他に採りうる方法があること、同様に(2)の目的のためには、本件のようにゲートを閉鎖して鍵をかけたり、バリケードを構築したりするまでの必要性は認められず、単にゲート付近に待機するなどの方策が考えられること、(3)はピケの派生的効果というべきものであること、関係証拠によれば那覇港勤務の市職員のうち第二組合員は一人であって、しかも同人はスト当日の保安要員になっていたから、第二組合員らが那覇港ゲートに就労しにくる可能性は全くなかったし、また悪質業者らがスト破りするとのさし迫った、具体的情報もなかったから、(4)の目的もさほど強いものではなかったことが指摘できるほか、前記のようなゲート門扉の閉鎖・施錠、バリケード構築等の物理的な力でゲート通行を阻止する旨を外部に対し強く表示していたこと、前示のように業者らに対し平和的説得とは到底いえないような相当強い言動を示してゲート通行を拒否・制限していたことなどの事情も存在するのであって、これらを総合すれば、本件ピケの主たる目的は、(人証略)にも若干窺えるように、争議行為の効果を高めるために業者等の通行、即ち、貨物の搬出入等を阻止・制限すること自体にあったと認めざるを得ない。原判決も主たる目的として同旨の認定をしているのであって、右認定に誤りはないと考えられる。

以上、本件ピケのとらえ方についての原判決の認定には所論のような誤りはない。

2  市当局の対応、貨物の搬出入の可能性について

所論は、要するに、市当局ははじめから貨物搬出入に関する業務遂行の方針、意思はなく、ふ頭事務所職員のスト参加による市の業務停止の結果、右搬出入業務の遂行は全く不可能な状態になっていたのに、原判決が市当局に必要最少限度の業務を行う方針があったとしたうえ、本件ピケがなければ手続を省略して貨物を搬出入することが可能であったと認定したのは事実誤認であると主張する。

しかし、関係証拠によると、本件ストにさいし市当局は那覇港の港湾施設を閉鎖することなく、課長以上の者を動員するとともに組合側の協力を得て保安要員を確保したうえで緊急やむをえない業務についてはこれを遂行する方針であったし(〈人証略〉)、現にスト中もバース会議は行われたこと(〈人証略〉)、スト中那覇港事務所に勤務したのは、二四日は保安要員の伊良波長哲、二五日は同じく保安要員の知名定英の各一名であり、同人らが電話の応待に追われていた事情もあるけれども(〈人証略〉)、本件スト中ピケ隊の許可により搬出された相当量の緊急貨物の搬出のさいピケ隊が現実に採った手続は、ゲートで業者に搬出届を提出させて車両の積荷を二名位で簡単にチェックする程度であったから(〈人証略〉)、これと同じ方法、即ち、搬出許可のさい保安要員が搬出届を受け取ってゲートで搬出貨物を簡単にチェックするにとどめ、その余の手数料徴収等の手続を省略してスト終結後に精算する方式をとれば(前示〈人証略〉によると、現に右手続省略方式がとられたと認められる)、保安要員一名であっても、緊急貨物について、市職労の本件ピケやバリケードがないかぎり、若干の遅滞が生ずるにしても、その搬出入自体は一応可能であったこと(〈人証略〉)、本件被害業務のうち搬出入業務にかかるものは、後記のように業者らにとっていずれも緊急に搬出入する必要性の強いものであったことが認められる。また本件前に行われた全沖縄港湾運輸労働組合(以下「港運労」という)のストの影響による滞貨もなかったわけではないにしても、この点が直ちに貨物の搬出入を全く不可能にさせるものとは考えにくいうえ、関係証拠によると、現に本件搬出被害貨物については本件ピケ及びバリケード解除後二六日中に全部その搬出ができたから、右滞貨等の点は本件の成否に影響を及ぼさない程度であったと考えられる。

また、所論は、原判示別表2の事実について、被害会社の金城徳助がふ頭に来た時点では目的の貨物が揚荷されて同人に引渡しうる状況にあったかどうか不明であり、従来の滞貨により荷役作業にかなりの支障も生じていたので当該貨物の搬出業務の遂行は不可能であったことが考えられる、同別表7の事実について、二六日朝は、機動隊の介入と沖縄県貿易協会の抗議団の行動によりゲート付近は騒然となって搬出業務が不可能になったうえ、被害会社の福山朝一がゲートに来た時点では当該貨物が搬出可能の状態にあったかどうか明らかでない、同別表3、6の各事実について、被害会社の従業員がゲートに来た時点では当該各貨物はまだ船舶に積載されていたから同人らの搬出業務の遂行は全く不可能であった、同別表1の事実について、被害会社の宮永鉄郎がゲートに来た時点では同人が貨物の搬入届提出前の諸手続を済ませていたかどうか不明であるし、そもそもその時点で既に貨物がふ頭内に置かれていた可能性もあって、当該搬入業務自体が存在するか疑問である、同別表4の事実について、当該揚荷作業が遅れたのは本件ピケによるものではない旨主張する。

これらの点については後記3でも触れるところではあるが、以下、関係証拠により検討する。別表2・7については、証拠上既に当該貨物が陸揚げされていたと推認されるのに対し、別表3、6については、たしかに当時未だ陸揚げされていなかった可能性もないではない。しかし、本件において、貨物搬出業務とは、原判決も説示するように、車両に積載された貨物を港外に運び出すこと自体だけをいうものではなく、これに必然的に伴う作業、即ち、ふ頭内での揚荷、車両への積載その他これに関連する各種の準備作業等も含まれると解せられ、貨物が陸揚げされていないとしても、ふ頭内に入って搬出のための揚荷やその他の準備作業をすることは十分に可能であるから(特に別表3のアイスクリームの場合は、一旦陸揚げせずに船から直接冷凍車に積み変えるもので、車両がふ頭内に入れなければ揚荷できない)、貨物は揚荷されていたか否かを問わず、搬出のためのゲート内への立ち入りを阻止した以上、貨物の搬出業務を妨害したというべきである(なお、威力業務妨害罪における妨害とは、原判決も説示するように、業務の執行または経営を阻害するおそれのある状態を発生させれば足り、現実に妨害の結果を生じたことを要しないと解せられる)。また滞貨状況の悪化による荷役作業への悪影響の点は本件の成否に関係ないこと前示のとおりである。さらに別表7については、後記のように福山朝一が現実にピケ隊に阻止されたため貨物の搬出ができなかったものであることは動かし難い事実であるし、そもそもピケによる封鎖がなければ機動隊の出動や沖縄県貿易協会の抗議もなかったともいえる。別表1については、後記のように当該貨物が当時保税倉庫にあって通関手続を終えていたことが明らかであって、二四日積載予定の貨物の搬入がピケ隊により阻止された以上、搬入業務が妨害されたといえる。別表4についても、後に詳論するように、被害会社港運部長桑江良勇が二五日午前入港のさくら丸の接岸・揚荷作業をしようとして作業員約五〇名を伴ってゲートからふ頭内に入ろうとしたのに対し、ピケ隊は、揚荷作業を全面的に禁止して接岸作業員だけの立ち入りを許したのであって、夜になってようやく揚荷作業も許したとはいえ、この間揚荷作業ができなかったから、本件ピケにより被害会社の業務が妨害され、遅延したことは疑いない。

3  関係業者、港運労の対応について

所論は、要するに、長期の通行制限により業務に支障が生じていたから関係業者がやむを得ずに機動隊の出動を要請した旨の原判決の認定は誤りであって、真栄城玄明が機動隊に出動を要請したのは、主観的な公務員ストに対する悪感情によるものであり、本件の警察権力介入の背景には市職労を中心とする沖縄の公務員労働運動に対する弾圧の意図があった、また港運労の支援については、原判決の認定のように、それが単に市職労のピケを強行突破しないというだけの消極的なものではなく、港運労自らの組織的決定により積極的支援として二五日の不就労戦術をとったのであって、その実質は同情ストの内容を有していた旨主張する。

しかし、関係証拠によれば、沖縄県貿易協会会長真栄城玄明が警察当局に出動を要請し、後日沖縄港運協会会長国場幸吉等とともに市職労を告発したについては原判決認定のような事情の存在したことが明らかである(〈人証略〉)。

また港運労が市職労を支援するためふ頭外に待機して作業をしない旨役員会で決定したことは認められるとしても、それは、あくまでも、市職労がふ頭内入構を阻止するかぎりはピケを破ってまでして就労することはしないというものであって、二五日まる一日の不就労を無条件に決めたものではないし、勿論同情ストではなかったと認められる。このことは、後記のように、二五日ピケ隊から荷役作業を拒否された大共港運の桑江良勇は数十名の作業員のふ頭外待機を余儀なくされたが、ピケ隊から入構を認められた接岸作業員八名は就労を拒否しなかったし、同日夜になってピケ隊から入構を認められた多数の荷役作業員もなんら就労を拒否せず、ふ頭内で荷役作業に従事した経過に照らしても明らかである。なお、二四日、二六日に港運労が就労できたのは、両日においては市職労ピケ隊がふ頭内での荷役作業自体を拒否しなかったためと認められる。

4  原判決別表各事実について

所論は、原判示別表記載の各事実につき、いずれも被告人らが威力を用いて各被害者の業務を妨害したことはないと主張する。

しかし、既に若干触れたように原判決には所論のような誤認があるとは認められない。

(一)  別表1について

(人証略)によれば、沖縄繊維工業株式会社は保税倉庫に置いてあったアメリカ向け輸出用の衣料品を二四日出港予定(現実には一日遅れて出港)の第八高洲川丸に積み込み、船会社から受領する船荷証券を換金して翌日の給料支払にあてる予定でいたこと、委託運送業者からピケのため車が入れないとの連絡を受けた同社取締役の宮永が、二四日午前九時三〇分ころ中央ゲートに赴き、右事情を具体的に説明して貨物の搬入方を繰り返し懇願したのに対し、被告人乙山は、つっけんどんな態度で、「そういうことを一つ一つ聞くわけにはいかない」等と述べてこれを拒否し、周囲にいたピケ隊員も「文句があるなら我々にではなく、市長に文句をいえ」等と威圧的な態度を示したため、宮永はやむなく同日の搬入方を断念したこと、そのため第八高洲川丸は右貨物を積み込むことなく出港し、同社では資金繰りに支障をきたしたことが認められるところであって、これに前示のようにゲートを封鎖してピケを張っている状況を合わせ考慮すると、被告人らの行為が威力にあたり、これにより被害会社の搬入業務自体が妨害されたと認めるに十分である。宮永の行為が単にストに対する一般的な抗議の域を出なかったとみることはできない。

(二)  別表2について

原審証人金城徳助の供述によれば、株式会社沖縄商会渉外課長である同人は、二四日午後一時ころ、トラックと運転手を同道したうえ、既に銀行決済や通関手続を終えていた輸入チーズについて、溶けるおそれがあったため早期に搬出する意思で中央ゲートに赴き、輸入許可証を示しながら「チーズが溶けるおそれがあるからゲートを通してくれ」と再三申し入れたこと、当時ゲートは閉鎖されており、ピケ隊の責任者らしい者は、「僕らでは分らん。市長に話をもって行ってくれ。ほこ先が違う」等といって立ち入りを拒否したことが明らかであり、これによれば威力を用いて被害会社の業務を妨害したことを認めるに十分である。当該貨物が当時陸揚げされていたかどうかは、前示のように本件の成否に影響がない。

(三)  別表3について

(人証略)によれば、沖縄森永乳業株式会社従業員の同人は、委託先の運送業者から二五日午前八時入港した東京丸からアイスクリームを降ろすことができないとの連絡を受け、右アイスクリームはドライアイスで保冷されているものの入港後五、六時間でそのセット時間が切れるため、バリケードを築いてピケを張っている組合員中の執行委員と名乗る男に対し、「アイスクリームを引き取りたい。セット時間が過ぎると溶ける」等と頼んだのに対し、同人は、「だめだ。そういうことなら市長に談判してくれ。生果物やヤクルトの原液も出していないので諦めなさい」等といって強く突っぱねて立ち入りを拒否したこと、右アイスクリームはコンテナに積まれており、右コンテナは当時まだ船上に存在したけれども、コンテナの場合運送の車両に直接荷降ろしすることになっており、運送業者の車両がふ頭内に入構できなければ揚荷できず、逆に右車両が入構できれば右コンテナの搬出の可能性は十分にあったこと(右コンテナの荷降ろし作業のさい港運労加入の荷役作業員を要するとしても、右車両のゲート通過をピケ隊が許す方針をとれば、港運労加入の作業員も入構して就労する可能性も十分あったことが窺えるほか、原判示のように搬出に向けての行動をとることも十分に可能であったと考えられる)、この結果二六日になって搬出したアイスクリームのうち四四〇ケース(七〇万円相当)が溶けて商品価値がなくなったことが認められるのであって、被告人らが威力を用いて被害会社の業務を妨害したことが明らかである。

(四)  別表4について

(人証略)によれば、二五日午前九時三〇分入港予定の貨客船さくら丸、同日午後五時三〇分入港予定のひかり丸の接岸、揚荷作業のため大共港運株式会社の桑江良勇は、同日午前八時三〇分ころ作業員約五〇名を伴って那覇港に赴いたところ、中央ゲートが閉鎖されてバリケードが築かれ、ピケ隊がいたため、ピケ隊の責任者と名乗る男と交渉したが、荷役作業を拒否され、接岸作業についても最少限度必要な人員一四名を一方的に八名に制限されたこと、しかも、そのさいピケ隊員らは、「これ達は作業に行くから警戒しなさい」といったりして桑江の感情を刺激したうえ、荷役作業をさせないようにふ頭内にまでついていって監視したこと、また右会社の常務取締役の狩俣恵良は、同日午前九時ころと午後一時三〇分ころの二度にわたり、さくら丸の荷役作業をさせてほしいと繰り返しピケ隊に要求したが、ピケ隊員らから「今日は全面封鎖だから入れるわけにはいかん。闘争委員会の決定だから」等といわれて拒否されたこと、右桑江、狩俣は、無理にピケを破って構内に入れば暴力行為等予想しえない事態に発展する可能性があったので、やむなく作業員を夕方まで近くの会社で待機させたこと、さくら丸の接岸作業員の入構が認められたさいもピケ隊と円満に交渉したというものではなく、けんけん、がくがくの議論に及んだこと、同日午後五時ころ右桑江は、ひかり丸の接岸、揚荷作業につき、「山羊、牛は早く降ろさないと潮をかぶって死んでしまう」等と具体的に説明して早期の揚荷を要求したのに対し、ピケ隊員は、「三役に連絡して回答する」等といって確答を与えず、揚荷作業を拒否したこと、ピケ隊に、同日午後七時から荷役作業を、翌二六日午前零時から搬出作業を認めたため、右会社では早急に荷役作業員を集めて徹夜で両船の荷役作業にあたったが、結局さくら丸は雑貨類約二五〇トンを揚荷できないまま二六日午後零時の出港予定時刻を約四時間も遅れて出港したこと、手配した荷役作業員を無為に待機させれば会社に賃金相当分の損害が発生するのは目に見えているうえ、ひかり丸に積載されていた家畜は船上で潮をかぶって死ぬおそれがあり、またさくら丸は貨客船で入港の翌日出港予定となっていて、速やかに揚荷しなければその完了前に出港するおそれもあったから、同社にとって早期に揚荷しなければならない必要性があったことが認められる。以上によれば、本件ピケの態様が説得の範囲内にあったとか、威力にあたらないとか、とは考えられないし、また二五日の日中に揚荷作業が行われなかったのは本件ピケにより作業員のふ頭内入構が阻止されたためであると認めるに十分である。

(五)  別表5について

(人証略)によれば、株式会社湧川商会取締役の同人は、二三日入港した第八高洲川丸で移入してふ頭野積場に揚荷されていた生ビール三〇〇樽について、腐るおそれがあったため、早期に搬出しようとして二五日午前一〇時すぎころ運送業者のトラックを那覇港近くに待機させたうえ中央ゲートに赴いたところ、同ゲートにはバリケードが築かれ、ピケ隊により封鎖されていたので、被告人乙山に対し、「生ビールをそのまま外に置いておくと腐るおそれがあるから早目に引き取らせてほしい」と要求したが、同人から「自分としては搬出の許可はできない。委員長の許可をもらってくれ」といわれ、さらに市役所において被告人甲野に対し同趣旨のほか、それができなければドライアイスを入れることも要望したにもかかわらず、中央ゲートまで同道した同被告人から「だめだ」と搬出を拒否されたこと、右真壁としてはどうしても貨物を引き取りたい気持があったものの、ピケを破ってまでは取れないと考えて搬出を諦めたこと、しかし、せめてビールの状態を確認したいと思って長い時間交渉した結果、ようやくこれを許されたことが認められるのであって、同人がただ港の様子を見るために赴いたものでないことは明白であるし、被告人らのピケが威力にあたらないともいいがたい。

(六)  別表6について

(人証略)によると、具志食品の従業員の同人は、二五日午前八時入港の東京丸で入荷した冷凍食品のハム、ハンバーグの港外搬出ができないとの運送業者からの連絡を受け、同日午後七時ないし八時ころ、当時品不足気味で同日搬出しなければ翌日以降の営業に差し支えが出るため同日右貨物を搬出しようと考えて貨物自動車で中央ゲートに赴いたところ、同ゲートがバリケード封鎖され、ピケ隊が座り込んでいたこと、右冷凍食品は、同業者の仕入商品と一緒に船上の冷蔵庫に保管されており、揚荷のさいは各仕入業者が車両で待機する中を船のクレーンで右冷蔵庫のまま降ろし、各業者が自己仕入分を引き取って車両で直ちに搬出し、冷蔵倉庫等に保存することになっていたこと、右具志が、他の業者とともに、「冷凍食品は早く出させろ。腐ってしまう。売り物にならん」等と口々に要求したのに対し、被告人甲野は、「我々としては要求貫徹まで一歩もひけない。市が要求をのむまでは、このピケを解くわけにはいかない。しかし冷凍物に関しては今夜午前零時から搬出を認めます」と答え、これに対し業者らが、深夜に商品を出しても冷蔵倉庫が開いていないことから、なおも早期に搬出を認めるように迫ったのに、この要求を拒否し、結局右具志を含めた業者らの商品搬出のためのふ頭内立ち入りを許さなかったことが認められる。したがって、右具志に貨物搬出の意思のあったこと及び本件ピケ封鎖が威力にあたること、ピケがなくふ頭内入構が許されれば、右具志が揚荷を含めた搬出業務を行うのは十分に可能であったことが明らかである。

(七)  別表7について

(証拠略)によれば、新聞社に新聞用紙を納入している株式会社福山商事の専務取締後の福山朝一は、二五日会社の運転手から、二四日午前入港の第二神戸丸で入荷した新聞用紙の搬出ができないとの報告をきき、新聞社への納品を翌日にのばしたところ、二六日にもストが続いているのを知り、右用紙が品切れしていて同日中に納品しないと新聞社に迷惑をかけることから、何とか搬出しようと考え、トラックを待機させたうえ、同日午前八時四五分ころ中央ゲートに赴いたが、同ゲートは閉鎖されてピケが張られており、バリケードも築かれていて入れなかったこと、同人は被告人甲野に対し、「新聞社に納入するもので遅らせるわけにはいかない。せめて今日、明日の二日分だけでも出させてくれ」と一時間にもわたって再三要請し、押し問答を繰り返したけれども、被告人甲野は、「気持はわかるが通すわけにはいかない」とこれを拒否して搬入のための立ち入りを認めなかったこと、搬出ができなかったのは、あくまでもピケ隊に阻止されたためであって、このピケがなければ機動隊が出動することもなかったこと、二六日朝までには既に右用紙が陸揚げされていたことが認められるのであって、本件において威力及び業務が存在したことは明らかである。

以上、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認はない。被告人両名の各供述、弁護側証人の各供述中、バリケード構築、ピケのさいの言動等について原判示認定に反する部分は、原判決の説示のとおり、到底そのまま信用しがたい。論旨は理由がない。

二  構成要件該当性についての法令の解釈・適用の誤りの論旨について

所論は、要するに、本件ピケは、口頭による説得を中心とする、ストに通常伴う程度のもので、それ以上の特別強力で積極的なものではなかったから、これが被害者の自由意思を制圧したとみることはできないうえ、本件各被害者に業務遂行の意思はなかったし、また業務遂行の可能性もなかったから、威力業務妨害罪の構成要件該当性を認めた原判決には、威力と業務及びこの両者間の因果関係について判決に影響を及ぼすこと明らかな法令解釈・適用の誤りがあると主張する。

しかし、既に認定したように、本件ピケのさい門扉が閉鎖され、バリケードが構築されていたという物理的な状況のほか、ピケ隊のピケの状況や被害者らに対する言動等に徴すれば、被害者らは、いずれも前示のように強く業務遂行の意思をもちながら、やむなくふ頭内立ち入りを一時的に断念しているのであって、これが被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力であったというに十分であると考えられる。また、既に述べたように、本件ピケがなければ被害者らはいずれもふ頭内に立ち入って各業務を遂行できる可能性があったところ、本件ピケにより業務の遂行を妨害されたと考えられるのであって、所論のように原判決が業務についての解釈を不当に拡大したとか、威力と業務妨害との因果関係の存在についての解釈・適用を誤ったとかいう余地はない。原判決には所論のような誤りはない。論旨は理由がない。

三  本件ピケの正当性についての法令の解釈・適用の誤りの論旨について

所論は、要するに、原判決は、実質的にいわゆる諸般の事情論を採用して本件ピケが社会的相当性の範囲内にある正当なものとは認められない旨判断したけれども、原判決の説示する諸般の事情においては、ストを実効あらしめるためにどの程度のピケが必要であったかとの観点、即ち、沖縄で築き上げられてきた労働運動の特殊性、那覇市職労の運動の経過や組織状況、当時の沖縄における政治・経済・社会情勢等の事情が無視されているうえ、原判決の考慮したというピケの目的・態様・影響についての判断にも誤りがあって、原判決には、本件ピケの本質とその正当性について法令の解釈・適用を誤り、かつ、判例(最高裁判所昭和四五年六月二三日第三小法廷決定刑集二四巻六号三一一頁等)に違反していて破棄を免れないと主張する。

しかし、原判決が被告人らの本件行為について社会的相当性の範囲内にある正当なものとは認められないと判断したのは相当であって、原判決に所論のような誤りがあるとは考えられない。被告人らの本件行為は、組合幹部として本件スト及びピケを統括し、原判決のような態様で威力業務妨害を犯したとされるところ、原判決も指摘するように、本件争議行為自体地方公務員法三七条に違反する違法なものであり、かつ、既に説示した点でも明らかなように本件ピケは右争議行為として行われたものであるから、争議行為であるからといって違法性が阻却されるいわれはなく、特段の事情のないかぎりその違法性が阻却されることはないというべきである。そして、原判決も指摘するとおり、本件ピケの目的は、主として争議行為の効果を高めるために業者の通行を阻止・制限して貨物の搬出入等を阻止・制限することにあったこと、したがってピケの対象が主として第三者である港湾利用業者に向けられたものであること、那覇港ふ頭内では、市の業務、船会社・荷役会社・荷主等の港湾利用業者の業務以外にも、大蔵省(税関)、法務省(入国管理)、運輸省(海上保安本部)等の官公庁の公務が行われ、また客船の出入港に伴う一般旅客の乗降もあるから、右ふ頭は極めて公共性の高い施設であり、これをピケ封鎖することによる社会公共上の悪影響には無視しえないものがあること、ピケの態様は、多数の組合員による座り込み、スクラムにとどまらず、門扉を閉鎖して時には施錠し、内側にはバリケードを構築するという物理力をも利用したこと、ピケの期間は三日間という長期間に及んだこと、被害業者らはいずれも船の出入港の時刻や貨物の特殊性により強くふ頭内立ち入りを望んだにもかかわらず、前示のような態様のピケによりふ頭内立ち入りを一方的に拒否もしくは制限されたのであって、ピケ隊の態様が説得の範囲内にあったとは到底認めがたいこと、現に被害業者中には、待機中の荷役作業員の賃金支払を余儀なくされたり、出港までに揚荷が間に合わなかったり、商品価値がなくなったりするなどの損害が発生した業者もいたこと、証拠上本件に至る経緯をみても市当局側に特に不誠実な対応があったような事情も窺えないことなどにかんがみれば、所論指摘の諸点、即ち、本件ストが、米軍の弾圧、使用者の暴力的介入、第二組合のスト破り等の絶えなかった米軍占領下における沖縄で築き上げられてきた労働運動の延長上にあるもので、復帰直後の異常な物価高騰の折りから組合員の生活を防衛するために行われたものであること、市職労は復帰前においては争議行為を禁止されていなかったことなどの点を十分に考慮しても、本件ピケは明らかに行きすぎであると考えられ、被告人らの本件行為はその違法性になんら欠けるところはないというべきである。また原判決の理由中の「本件犯行の背景をなすスト及びピケの状況等」と題する部分や「量刑の事情」と題して説示する部分にもあるように、原判決は、右社会的相当性の有無の判断にあたり、所論指摘の諸点をも当然の前提として把握していたといえないでもないし、所論にいう原判決のいわゆる諸般の事情論の結論が所論指摘の判例に反しているとも考えられない。原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の解釈・適用の誤りはない。論旨は理由がない。

そこで、本件各控訴はいずれも理由がないから刑訴法三九六条によりこれらを棄却し、当審における訴訟費用については、同法一八一条一項本文を適用してその二分の一ずつを各被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新海順次 裁判官 徳嶺浩正 裁判官 中西武夫)

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